2025
イエス・キリストの愛を体現する
2025年1月号


fsy Special Company ─ 大切なあなた

イエス・キリストの愛を体現する

─fsy2024特別カンパニーが目指したもの─

2024年5月の安息日の夜,牧野まきの翔真しょうま兄弟はリビングで初めて大泣きをした。「周りの方々に見た目で笑われること,バカにされたり行動が遅いと怒られること,家族も教会員も誰も自分を理解してくれない,自分は孤独であると泣いていました」と父親の牧野英一えいいち兄弟は振り返る。翔真兄弟は,小学1年生になったばかりの頃,交通事故に遭った。一命をとりとめたものの頭蓋骨が欠損し,骨に覆われていない部分の脳を保護するヘッドギアが手放せない生活となる。後遺障害のため動作にも時間がかかるようになった。同級生と異なる外見と障害は,翔真兄弟をずっと苦しめていたのだった。翔真兄弟が泣き止んだ後,牧野兄弟は,「誰も分かってくれないかもしれないけれど,イエス様はちゃんと分かってくださっているよ」と伝えた。その数日後,fsy東京セッション特別カンパニーへの招待が牧野家族のもとに届く。ビショップからのLINEメッセージを読みながら,牧野兄弟は強い確信を抱いた。これは,主からの答えだ─。

99+1匹の羊

2024年8月9日から6日間にわたって行われたfsy東京セッションには,初の試みとなる「特別カンパニー」が設けられた。障害等,様々な事情から通常のカンパニーへの所属が難しい青少年を対象とした,保護者同伴のカンパニーである。カンパニーのカウンセラーとして召されたのは村上むらかみ聖音まさと兄弟・あい姉妹(夫妻),青柳あおやぎ明永あきと兄弟,山本やまもと真菜まな姉妹の4人。4人とも障害についての専門知識はなかったが,障害児教育に携わる教会員のアドバイスを受けながらプログラム等の準備を進めた。並行して参加者の保護者とウェブ会議での顔合わせも行う。「親御さんからお子さんのお話を伺いました。身体的な障害を持っている子もいれば,明確な病名を持っていないけれど内気で学校にいけない等いろいろな子がいたので,接し方を考えたり,各自の状況を理解して覚えたりというのをよく夫婦で話しました」と村上姉妹は振り返る。保護者の田上たがみ真理まり姉妹は参加中ずっと,青柳兄弟のネームプレートに入っていた99+1の羊のカードが目に留まったという。「娘のような迷子の子羊を(主は)捨て置かないし,皆の愛を受けて特別に扱ってもらうことで,それを感じることができました。」

一人一人に向かって

東京セッション初日の8月9日,東京はぎらつく太陽の下,猛暑日を記録していた。会場の国立オリンピック記念青少年総合センターの玄関扉は,開くたびに熱気と大荷物を抱えた青少年を送り込む。村上夫妻は一抹の不安を感じていた。カンパニーの集合場所のホールは喧騒に満ちていた。横並びで固定された椅子に親子が座ると距離ができ,お互いの声も聞こえない。「ゲームをやっても絶妙に盛り上がらない……みんなが心を開いていないのが分かるんです」と村上姉妹。青少年に話しかけても目が合わない。「体も顔もずっと親御さんのほうを向きっぱなしの子もいました。何か尋ねると,みんな親御さんを通して答えが返ってくる感じでしたね。」先行き不安な顔合わせの中,カウンセラーたちは青少年と親しくなるための行動を起こす。村上姉妹は言う。「夫と一緒に(個別に)あいさつをしに行きました。皆さんこんにちは,ではなくて,〇〇君だよね,こんにちは,というように。ほかにも(事前の面接で保護者に聞いていた)彼らが好きなものを覚えて行ったので,その話題で仲良くなることを心がけました。」多くの青少年は,好きな漫画やアニメの話になると表情がやわらいだ。

「牛丼買ってこようか」

初日の夕方,夕食の時間が始まった。食事をする人々の中には到着したばかりの牧野親子の姿もある。大阪から東京までの飛行機の旅は,翔真兄弟にとって最初の難関だった。「翔真の場合,飛行機に乗ると,頭蓋骨で覆われていない部分から直接脳に気圧の影響が及びます。気圧の変化で脳が膨れてしまわないか……また以前,てんかんの発作を起こしたことも心配でした。」牧野兄弟の心配とは裏腹に体調不良も起こらず,翔真兄弟は初めての飛行機の旅を楽しむことができた。牧野親子が2階の食堂で食事をしていた頃,階下の閑散としたロビーでソファに腰掛ける別の親子の姿があった。田上たがみ志苑しおん姉妹と母親の真理姉妹である。多数の人々に囲まれると強い不安を感じる志苑姉妹は,食堂に向かう階段を登れずにいた。以前セミナリーグランプリに参加したときも参加者でごった返す会場に耐え切れず,15分で退出している。食堂に入るのが怖い,入るくらいなら食べない,と言う志苑姉妹と途方に暮れていたそのとき,駆けて来る人影があった。「田上姉妹! 志苑ちゃん!」顔見知りの神奈川ステーク会長会第二顧問,遠藤えんどうじゅん兄弟だった。満面の笑みで迎えられ,心がほぐれた田上姉妹が事情を話すと,遠藤兄弟は言う。「牛丼買ってこようか?!」えっ,いいの?! 驚く田上姉妹に遠藤兄弟は「いいのいいの!」と笑いかけた。二人のやり取りに気が付き,運営スタッフも集まってくる。「しょんぼりしている志苑に,ようこそっていろんな人が声をかけてくださって。本当にありがたかったですね。」そのとき,村上姉妹は一足先に食堂に入り,何度も階段を上り下りしては中の様子を知らせてくれたという。知らない人と一緒に食事をすると味がしないという志苑姉妹に安心してもらうためだった。「LINEで写真も送ってくださって。そのうちに,隅っこが空いていることがわかって,わたしが先に中に入って様子を知らせたら,志苑が行ってみようかなって。ちょうどすいている時間帯で,二人で座って食事をとることができたんです。」小さな変化,小さな奇跡。その子のために何ができるか,手探りで始まった特別カンパニー。潮目の変化は2日目にやってきた。午後に設けられたゲームと休憩の時間のこと。皆が驚いたのは,鳥取県から参加した岩佐いわさ愛奈あいな姉妹のパズルの才能だった。もともとパズルが好きだという愛奈姉妹。今回のために特注された,fsyのキービジュアルを図柄にした1000ピースのジグソーパズル2セットを,元絵を一切見ず,ピースだけを見て作り上げていった。背景色だけの部分もずば抜けた集中力で組み合わせる彼女の周りに人垣ができる。「彼女を見て,みんなも面白いなってパズルを一緒にやったりしたのが,(カンパニーが)盛り上がり始めたきっかけでした」と村上姉妹。地域会長会第二顧問のクリストファー・H・キム長老,スー姉妹も気軽に特別カンパニーの青少年へ話しかけ,一緒にボードゲームを楽しんだ。愛奈姉妹は最初の顔合わせのとき,顔も体も母親の岩佐いわさ恵美子えみこ姉妹のほうを向いたまま,全くカウンセラーと話せない状態の子だった。自閉傾向があるため,人前に出ることが苦手で知らない人と話せない。そんな愛奈姉妹の態度が,パズルに取り組んだことで変わっていった。「顔も体も向けてくれなかったのが,少しずつ角度が変わってこっちを向いてくれるようになったんです」と村上姉妹はほほえむ。変化のきっかけは,カウンセラーの接し方にあったと母親の岩佐姉妹は感じている。「パズルや他の活動の中でほめて,行動を認めてくださっていました。受け入れられているという自信で,愛奈は自分を出していけるようになったと思います。」青少年がゲームを楽しんでいる間,保護者たちは懇親会を持った。その中である保護者が,以前アジア北地域会長だったスコット・D・ホワイティング長老とのやり取りを紹介した。「(障害を持つ子育ての中で)奇跡を望んでも良いですか?」との質問に,ホワイティング長老は即答する。「もちろんです,奇跡を望んでください。」その後に続く言葉はその保護者の心に強く響いた。「ただ,大きな奇跡ではなく小さな奇跡に目を向けてください。小さな奇跡に目を向けるときに,それらが積み重なって,振り返ったときに大きな奇跡になっているはずです。」

幕のこちら側で

8月13日火曜日,最終日前日のこの日は,特別カンパニーの保護者たちの多くが心待ちにしていた東京神殿訪問の日だった。障害があったり特別な配慮が必要だったりする青少年たちにとって初めての機会であり,中には神殿参入を目的にfsyに参加した家族もいた。愛知県に住む石井いしい里織りお姉妹と両親のわたる兄弟,美雪みゆき姉妹はこの日のために前夜から参加した。ダウン症の17歳の里織姉妹はその特性上,心身の発達が緩やかで,福音への理解が深まり,善悪の判断もつくようになってきた去年,バプテスマを受けた。次のステージとして神殿での儀式を考えていたものの,場所見知り,人見知りが強く「初めて」が苦手な里織姉妹にとって神殿参入のハードルは高かった。「青少年のツアーにはとても行かせられないし,家族だけで行くにも本当に可能なのか分からなくて。」(石井姉妹)そんな石井家族にとって今回はまたとない機会だった。こうして迎えた神殿参入の日,里織姉妹は初めての場所を嫌がり,バプテスマ室へ下りる階段の前で動かなくなってしまう。何とかなだめて下りたものの,バプテスマまでは難しそうだった。せめてもという気持ちで確認の儀式の神殿カードを用意してもらうと,神殿レコーダーの當眞とうま邦仁くにひこ兄弟が言う。「(確認の)お部屋に入る練習だけでもいいんですよ。」その言葉は石井姉妹の背中を優しく押してくれた。「そういう考え方でもいいんだ! この子にもやれることがあるんだ!」と思えた。按手の順番を待つ間,待ち疲れた里織姉妹はフォントの長いすのところに寝転がり,寝息を立て始めた。無事,按手までたどり着けるのかと焦る石井夫妻。ついに里織姉妹の確認の儀式の順番がやってきた。寝入っていた里織姉妹は石井姉妹の「パパから按手を受けてきて」という声にすっくと立ちあがる。確認の部屋に入室した里織姉妹の頭に手を置いたとき─石井兄弟は圧倒されるほどの主の愛を感じた。「天父と御子イエス・キリストが,この子が儀式を受けるのを喜んでおられると感じました。こんなにも愛してるんだな,喜んでいるんだな,と……。」改めて感じた愛の深さに涙があふれ,言葉が続けられない。主の愛に満たされて確認の儀式を施す父親の手の下で,里織姉妹は静かに座っていた。確認の儀式を終え,笑顔で部屋を出る里織姉妹と石井夫妻に再び當眞兄弟が声をかける。「家族だけの時間も取ることができるから,今後も入りたければいつでも連絡してください。」 「できるんだって思いました」と石井姉妹。「この子にも関われる奉仕の形があると知ることができたのが,一番大きな収穫でした。」この日,牧野翔真兄弟もヘッドギアを着けたまま水に沈み,身代わりのバプテスマと確認を行った。父親の牧野兄弟も石井姉妹と同じ気持ちを感じていた。「(翔真は)今まで人の助けをもらうばかりだったけれど,体を持っていない死者のために,自分の体を使って奉仕することができると,今回のことでよく分かりました。」障害があるわが子にもできる奉仕がある─それこそがこの神殿参入を経験した保護者が得た証であり,希望だった。

たくさんの天使たち

神殿訪問を終えて,夕食前の休憩時間。田上姉妹は目の前の光景に目を疑った。志苑姉妹がお気に入りのキャラクターのイラストをホワイトボードに描き,ほかの青少年やカウンセラーが「すごく上手!」と称賛した。そこへ村上兄弟が「ぼくも描けるよ!」とピカソのようなタッチで描き加えた手のパーツ─みんなが大笑い……その中で,志苑姉妹も笑っていた。「志苑が,みんなと笑っているなんて……」初めて見る光景に湧き上がってきたのは驚き,そして感謝だった。「もう来られないかもと思っていたくらいなので……娘が楽しんでいる様子も見ることができて,出会いに感謝しています。」東京セッションの最初からずっと,田上姉妹は出会う人々の言葉掛けや笑顔,心配り,全てにキリストの愛を感じた。途中参加の田上親子を炎天下のバス停まで迎えに来てくれた村上姉妹,到着後,志苑姉妹が名札に名前を書けるよう,別棟まで走ってペンを取りに行ってくれたカウンセラーの青柳兄弟。同じワードの青少年も廊下などですれ違うたびに志苑姉妹に駆け寄った。「志苑ちゃんが来られてよかった! 楽しい?」口々に声をかけてくれるその姿に涙が出そうだった。「通常のカンパニーに参加できない切ない気持ちも,娘がfsyに来られたことを手放しで喜んでくれる同じワードの子たちによって払拭されました。」その後に続く夕食の時間,たくさんの人がいる食堂で,人混みが苦手な志苑姉妹は動じることなく食事をしていた。カウンセラーの目を見て話すことができなかった愛奈姉妹が,陽気に喋りながら村上夫妻の隣に座っている。母親の岩佐姉妹は別の保護者たちと少し離れたところから娘の様子を見守っている。それはまるで,東京セッションを通じて青少年の中に起こった小さな奇跡を一つの場に集めたような時間だった。後に作成された証集の中で田上姉妹は次のように書いている。「人の価値が神の目に大いなるものであるという聖句が真実だと感じました。それはきっとfsyに関わった全ての人がイエス様のようだったからに違いありません。」

次のゴールへ

6日間の全日程を終えて無事閉幕したfsy東京セッション。特別カンパニー及びfsy全体に満ちていた温かな空気は,保護者たちに,わが子に対する救い主の思いを伝えた。fsyはまた,参加した青少年と家族に新たな夢と目標を与えた。初めて空の旅を経験した牧野翔真兄弟は飛行機に魅せられた。「飛行機に関する仕事をしたいな」という翔真兄弟は,夢をかなえるための進路を考え始めた。次のfsyも「参加してみたいです」と心待ちにしている。そんな翔真兄弟の姿に牧野兄弟は懇親会で聞いた言葉を重ねている。「“小さい奇跡”を積み重ねて,振り返ると大きな奇跡になるんだと思います。(事故から)10年を経て,fsyに参加して神殿で儀式を受けて……ここまで彼も成長できている,と実感しています。」石井里織姉妹と家族もまた,次の目標に向かって歩み始めている。「次のゴールは,家族揃ってみんなで神殿の儀式を受けることです」と石井兄弟。「それは家族の大きな希望で,特別カンパニーが立ち上がらなかったら起こり得なかったことです。(fsyを通して)家族はミニスタリングを受けたと感じています。」

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これまで2年ごとに全国規模で行われてきたfsyだが,2025年からは全国を,偶数年参加・奇数年参加の2地区に分け,1地区ごとに2つの会場で毎年開催される。特別カンパニーは偶数年の実施が計画されており,次回は2026年。その年度の参加対象ステーク・地方部にかかわらず,特別カンパニーには全国どこからでも参加できる。青少年と保護者の夢をかなえた特別カンパニー。次はどんな奇跡に満ちた時間を作り出すだろうか。◆

  1. For the Strength of Youth の略。キリスト教の教えを土台とし,様々な活動を通して青少年がより良い人生を設計できるよう支援することを目的とする,宿泊を伴った教育プログラム

  2. ラッセル・M・ネルソン大管長は100 歳の誕生日を迎えるにあたり,99 匹の羊を置いて迷える1 匹を探しにいく「良い羊飼い」のキリストの教えを実践し,助けの必要な人へ手を差し伸べるよう呼びかけた

  3. ダウン症候群。21番目の染色体異常が原因で発症する。特徴として知的・身体的発達が全体的に緩やかであり,先天性の心臓・消化器の奇形,合併症などが見られることがある

  4. 教義と聖約18:10