リアホナ
天の家への旅路 - 悟くんとの地上での4か月
『リアホナ』2026年4月号


天の家への旅路 - さとるくんとの地上での4か月

息子の悟・ジョージ・ハチンソン─“悟くん”とわたしたちの旅が始まったのは2020年の12月、彼の妊娠が分かったときからでした。わたしにとって悟くんを妊娠したことは奇跡でした。不妊治療をしなければ妊娠できない状況だったからです。

悟くんの問題

妊娠20週目の超音波検診のときに、先生が悟くんの首の後ろにふくらみを見つけました。他にも気になる症状があったため検査をしたところ、21トリソミー(ダウン症候群)であることが分かりました。心臓にも異常がありました。右心房が異常に大きく、三尖弁さんせんべんがきちんと閉まっておらず、血液の逆流がある状態でした。先生からは、悟くんが生きて生まれてくることができない可能性も伝えられました。彼が無事生まれてこられること、もしそうでなくても天のお父様の御心を受け入れられるように、と祈る毎日が始まりました。

生まれてすぐの試練

悟くんが現世で、肉体を受けて生活することが天のお父様の御心だったので、2021年7月22日、悟くんは無事に生まれてきてくれました。生まれてすぐに自発呼吸ができなかったため、人工呼吸器を挿管されてCICUに連れて行かれました。

数日後、病院の悟くんの医療チームとのミーティングがありました。悟くんはダウン症に加えて心臓もかなり悪く、肺やリンパ系、肝機能にも多くの問題がありました。総合的に心臓手術の成功の可能性は低く、生存の可能性も低いと言われました。

リンパ系の機能不全のせいで悟くんの全身はむくみ、目も開けられない日もありました。8月13日には敗血症になり、危篤状態になりましたが乗り越えました。その後も、肝臓が悪いために悟くんの具合が悪い日は続きました。血液がうまく流れていない心臓の筋肉は負担のためにどんどん肥大し、大人の心臓と同じくらいの大きさになってしまいました。

夜の訪問

悟くんの入院している病院は自宅から離れていて、高速道路を使って車で1時間かかります。毎晩、子どもたちが寝ると友人に留守番を頼み、夫婦で悟くんに会いに行きました。

最初、夫はたくさんの管がつながれて抱っこもやっとの悟くんに、どう接したらいいか分からないようでした。わたしは考えて、自分が宣教師だった頃の話を悟くんにしてあげてほしい、と言いました。悟くんはこの短い人生を終えたらきっとすぐ天上で仕事をするような存在で、福音の知識はもうあるだろうけれど、地上の家族である父親の伝道の話は、今聞かなければ知らないままかもしれないと思ったからです。

それから、夫は悟くんに自分の伝道中の話をしたり、賛美歌を歌ったりするようになりました。悟くんは毎晩、わたしたちが訪問する時間になると目を覚まして待っていてくれるようになりました。夜22時から24時までのたった2時間、訪問してくる人たちを、お父さんお母さんと認識し、楽しみに待っていてくれたのだと思います。

10月1日、悟くんは気管切開をしてもらいました。もう口から喉を通るチューブがなくなったので、おしゃぶりを楽しむことができました。ただ、心臓自体は治療できていないので、心臓が動き呼吸することだけで大きな負担がかかり、ミルクから得られるほとんどのカロリーを消費してしまいます。生まれてから3か月近くたっても、体重はほとんど増えていませんでした。

悟くんのための選択

10月、容態が少し落ち着いてきた矢先に悟くんは突然、危篤状態になりました。先生たちの懸命な治療で一命を取り留めることができましたが、原因は細菌感染ではない何か、ということしか分かりませんでした。腎臓も肝臓も悪くなり、肺高血圧症がさらに悪化しました。

先生たちからは、このまま生きていることは悟くんの苦しみを延ばすだけなので、安らかに来世に行けるようにすることを勧められました。示された選択肢は2つです。一つは日にちを決めて、その日に悟くんが生きるために使っていたすべての装置と薬を止めて亡くなるのを看取る。もう一つは、今から薬だけをやめて、何かあったときにはわたしたちが病院に到着するまで延命措置をしてもらい、そして亡くなるのをる。

わたしたちは後者を選択しました。悟くんの人生の使命を達成したと決めるのはわたしたち両親ではなく、天のお父様と悟くん自身だと感じていたからです。

悟くんの人生の残りの時間が少ないだろうということで、まだ2歳だった息子と娘は特別な許可を得て、弟の病室を訪問することができました。最初で最後の面会でした。

夜の高速道路で

悟くんが危篤状態になった後、わたしは知り合いの神権指導者に、彼のために祈ってくれるよう頼みました。その祈りの後、悟くんは先生たちの予想とは反対に、少しずつ落ち着いている時間が増えていきます。

この期間に、悟くんの身体的、情緒的な発達を見ることができました。何よりもうれしかったのは、面会に来たわたしを見て、悟くんがニッコリと笑ってくれたことです。自分の手の存在に気づいて手をしゃぶったり、家族の写真を眺めたり……音楽も好きで、ミュージックセラピストと過ごす時間やわたしたちの歌を聴くことを楽しんでいるようでした。

それは指導者の祈りによってもたらされた奇跡のような時間でした。ですが、そのことに感謝するわたしの心の奥底には同時に、医療に対する怒りがありました。今の医療はこんなにも進んでいるのに、どうしてもっと悟くんに対してできる治療がないのか?今ちゃんと生きているのに、薬をやめて死ぬ日を決めるようなことをしなくてはならないのか?悟くんが生まれてからずっと感じていた怒りでした。

11月の深夜、悟くんとの面会を終えて車を運転しているときでした。夜の高速道路は真っ暗で、夫はおらず一人でした。そのときもわたしは怒っていました。

すると突然、ある印象がぱっとわたしの中に入ってきました。

─クリーム色の明るい空間でした。天のお父様がひざまずいて、さあおいでというように手を広げています。お父様の広げた手に向かって小さな赤ちゃんの悟くんがちょこちょこと足を動かし、声を上げて走っていきます。飛び込んできた悟くんを天のお父様は笑顔で抱きしめました。「よく頑張ったね、よく帰ってきたね、ありがとう。」そう言われた悟くんもお父様の腕の中でニコニコしている、そんな心象が広がりました。

そのとき初めて、天の両親は、肉体の親であるわたしたちよりももっと大きく深い完全な愛で悟くんを愛していて、彼にこの人生を与えられたということを心で納得することができました。悟くんは天のお父様に選ばれてここへ来ていて、召しを果たし終わったら天のお父様のもとへ帰りたいと思っている。天のお父様も悟くんを待っておられて、帰ってきたら喜んで迎え入れるのだと。

このときから、もっと主の御心を受け入れられるようになったと思います。どんなことがあっても、いつ死んでしまっても、それは現世の悟くんの歩むべき道の終わりに過ぎないと考えるようになりました。

イエス様と同じ傷

2021年12月3日、風邪のウイルスに感染した悟くんは危篤状態になりました。頑張って働き続けた悟くんの心臓はもう限界で、一生懸命動いているのに徐々に身体に酸素を送れなくなっていきます。病院から連絡を受けて駆けつけたわたしたち夫婦の腕の中で、悟くんは生涯を終えました。

現世での働きを終えた悟くんの小さな身体を、夫と一緒に拭きました。生まれてからずっとつながれていた点滴用の管や器具をすべてはずされた悟くんの身体にはたくさんの傷がありました。手の甲と足の甲には点滴の針を刺した穴と内出血があり、脇腹には心臓手術の傷跡がありました。それを見たときに、イエス様にも同じ場所に傷があったこと、復活されてから、その傷を弟子たちやニーファイ人に見せ、触れさせられたことが思い浮かびました。

悟くんは、お日様の光も風の心地よさもミルクのおいしさも知らないままでした(栄養はずっと鼻からチューブで胃まで届けられていました)。家族とは一日たった数時間しか一緒にいられませんでした。ほとんど独りでたくさんの病気と細菌とウイルスと戦い、痛みと苦しさにひたすら耐えました。そんな悟くんの姿をわたしのSNSで見た方々から、「悟くんから試練を乗り越える力をもらった」 「導きを受けた」といった言葉をたくさん聞きました。イエス様と同じ場所に傷がある悟くんは確かにイエス・キリストの弟子で、彼にしかできない使命を、天のお父様の望まれるとおりに完全に全うしたのだと感じました。

***

悟くんを送ってから、精神的につらい日々を支えてくれたのは、贖いと復活の教義でした。同じように子どもを亡くされた経験のある方々からは、「どんなことがあっても絶対に、夫婦揃って悟くんの前に立って、『悟くんただいま』って言えるようにするんだよ」と言っていただきました。落ち込む日も夫婦げんかをしてしまう日もありますが、悟くんの前に立つ日を思うとエネルギーがわいてきます。たとえもう頑張れない日があっても、悔い改めてまた頑張ろうと思い直します。そのときにイエス様が罪を清めてくださり、力をお与えくださる。そう信じることで、今も生きている意味があると感じられます。キリストの贖いと復活はわたしにとって希望です。

天のお父様が、大切な息子イエス・キリストを通して贖いの計画を実行してくださったおかげで、わたしたちは肉体の死を乗り越え、復活することができます。悟くんのように幼くして亡くなった魂は無条件に贖われ天に迎え入れられます。今、以前受けた印象の通りに、悟くんが天でお父様に迎えられていると信じています。◆

  1. 通常2本の染色体の21番目が3本になっていることによる染色体異常。心身の成長が全体的に緩やかで合併症を伴うことも多い

  2. 心臓の右心房と右心室の間にある弁。心臓から肺に送り出された血液が逆流しないようにする役割がある

  3. 心臓性重症状態の患者のための集中治療室

  4. 全身に細菌が増殖する疾患

  5. 人工呼吸器の管を喉から入れるための穴を開ける手術