2024
子どもたちは,立ち直る力(レジリエンス)を身につけ」
2024年9月号


Strengthen Children and Youth ─ 主に頼る子育て

子どもたちは,立ち直る力(レジリエンス)を身につけ」

渡邊家は先祖代々,壮大な富士山の南麓に位置する富士市に住む。子どもたちには発達障害や学習障害があるが,家族はいつも一緒に行動して生活を楽しみ,主に頼ることを学んできた。リビングにずらりと並ぶ家族写真には,子どもたちの成長や両親の信仰,折々に受けた主の導きの軌跡が刻まれている。

渡邊家の生活は,変化とチャレンジの連続だ。渡邊夫妻は子どもたちを無防備のまま世に送り出したくないと願い,家族の祈り,聖典勉強,家庭の夕べ,神殿参入の習慣を絶やすまいと努力してきた。子どもたちが心の不調などで生活リズムがばらばらになったときは,彼らが起きてくる順に台所のテーブルで,時にはベッドのそばまで行って一緒に祈り,聖典を読んでから一日を始める。教会に集えない状態のときは,駐車場で時間を過ごし,聖餐を運んでもらった。

子どもたちが幼い頃,周りの目は厳しかった。発達障害─生まれつきの脳の特性からくる,本人の力ではどうにもならない生きにくさと困難─そのつらさや苦しみを理解してもらうのは容易ではない。いじめられ,怠けていると叩かれ,仲間外れにあい,暴言を浴びたこともある。「子育てもろくにできない,甘やかしている,自分の子どもに悪影響」など,両親へも容赦のない言葉が向けられ,学校や地域でしばしば噂や批判の的にもなった。

葛藤の日々

次男の太陽(たいよう)兄弟は,きょうだい4人の中でもことさら生きづらさを抱えていた。幼いころ寝付かせようとすると火が付いたように泣き,保育園の頃から登園をしぶり,小学校に入学後も新しい環境に慣れるのに努力を要した。成長とともに,彼なりに周りに気を遣い自分を抑えようと頑張ってみるが,なかなか理解を得られないという現実も学んでいく。小学3年からは教会に行きづらくなった。特別支援学級に通っていた小学5年のときには,「支援級だからばかなんだよ」と年下の子に嘲られる。そうした心ない言葉やつらい経験を通して太陽兄弟は,小学6年からは普通級に通うようになった。

しかし,中学校に進学すると学習はより難しくなり,思春期特有の不安やいらだちも加わり,出席日数は年間を通しても1か月ほどだった。支援級にいたときは,先生の前で自分のありのままを出すこともできたが,普通級ではそうはいかない。学年が上がり周りに順応する術を学んでいくにつれ,本当の自分を抑えて振る舞うストレスも増していく。家ではゲームやネットに没頭する時間が増え,心が荒れ暗くなることもしばしばだった。「疲れて家に帰ると,パソコンの前に座って自分を解放し,自分を癒す作業をしていたんだと思います。(学習を)やらなきゃと思っても,やる気が出ない。分かっていてもできない……」千晴(ちはる)姉妹は,体力を奪われるほど心を使い切って帰宅し,なおも自分の弱さと闘っている息子を見てきた。

「渡邊家の安息日は,これまでは子どもたちがよく文句を言って,教会へ行く車の中はあまりいい雰囲気ではありませんでした」と千晴姉妹は回想する。「教会へ行くことは強制でなく,自分の信仰で,自分で選んで行くのだと伝えてきました。神様に従わないと幸せになれないと,太陽もよく言っていました。でも,(精神的な負担が大きく)嫌々行くので,とても苦しい感じがしていました。」たまに聖餐のパスをしてもすぐに車に戻ってきたり,台所で聖餐を取ることしかできなかったりした。

主に頼る

その彼が中学2年の終わり頃,「普通の高校へ行く」と両親に宣言したのである。それは,きちんと学校に通い,受験を経験することを意味する。当時の太陽兄弟にとっては途方もない目標だった。

いよいよ3年生への進級が迫ったある日,太陽兄弟は緊張と焦りで情緒が非常に不安定になっていた。肩を落とし,台所にあるパソコン台の前に座った彼は,壁に向かってぼそっとつぶやいた。

「だめだ。体力が続かない……。」

千晴姉妹が近寄り,語りかける。「ここまで自分で頑張って来たけど,あとは神様に助けてもらうしかないんじゃない?」

「ぼくは,どうしたらいい?」

今だ!と千晴姉妹が感じて返した言葉は,いつもと同じ内容だ。「もっとよくお祈りをすること,聖典を自分でも学ぶこと,教会にちゃんと出席して,聖餐のパスをすること,神殿に参入すること,セミナリーを受けること!」

少し間をおいて,パソコンの画面を見ていた太陽兄弟がゆっくりと振り向いた。「分かった。」

その瞬間,千晴姉妹は確信する。

「この子,本当に分かったんだ。言葉が入ったんだ。自分には目標をやり遂げる力が不足していて,主に頼る必要があると悟ったんだ!」

「21日チャレンジ」

太陽兄弟の生活は,やがて徐々に変化を見せ始める。

千晴姉妹は数年前から,預言者の伴侶ウェンディ・W・ネルソン姉妹が2015年にブリガム・ヤング大学の女性部会で紹介した「21日チャレンジ」に取り組んでいる。21日間続けて,主と交わした聖約を思い起こし,神殿家族歴史活動のために一定の時間を取り,天使を送ってくださいと祈る。これを何クールも繰り返すのである。実践した結果を家族にも伝えてきた。

「天が開くような感覚があって,神様がわたしを見守り,導いて下さっていることがはっきり分かります。霊感を受け,証が増し,奇跡が何度も起きるんです。誰もが霊的な経験を時々しますが,そのスピード感が加速する感じです。」

太陽兄弟も自分から望み,このチャレンジに取り組み始めた。

朝7時頃に起き,旧土地台帳から先祖の名前を1日に一人,慣れた手つきでパソコンやスマートフォンからファミリーサーチに入力する。また近所には,渡邊家の先祖が眠る法蔵寺がある。親子で一緒に法蔵寺を訪れ,墓碑から名前を写し取って来ては入力を続けた。そのようにして,中学3年は良いスタートを切れたのであった。担任の先生やクラスメイトにも恵まれていると,千晴姉妹は安堵した。

「エアー神殿」

ところが喜んだのも束の間,進級して3日後の太陽兄弟は帰宅するなり「疲れた」と座り込む。

次の日の朝,太陽兄弟は学校に行くかどうかで葛藤していた。制服に着替えて,学校に行く用意はできていても,外に踏み出す一歩が出ない。口では行かなきゃというが,なかなか行けない。……「太陽のために,わたしは何をしたらいいですか?」見かねた千晴姉妹は短く祈った後,語りかけた。

「『エアー神殿』やってみる?」

「やってみる」

エアー神殿,と千晴姉妹が呼ぶのは,神殿に行った様子を心の中で敬虔に辿っていく,「家にいながらの神殿参入」である。思うように神殿に行けなかったときに友人から教わった,主の愛を感じる方法だ。東京神殿の再奉献後から渡邊家の神殿参入の習慣は再開しており,幸い太陽兄弟にも再現可能な体験がある。

千晴姉妹が語りかける。太陽兄弟は眼を閉じて集中し,心に思い描く。「今,神殿のドアを開けます。ロビーを歩きます。受付で神殿推薦状を出します。推薦状を受け取ったら階段を降りて,更衣室へ行きます。白い衣装に着替えます。いすに座り,儀式が始まるのを待ちます……」太陽兄弟は心の中の参入を終えて神殿を後にすると,すっと立ち上がった。

「平安になった……」

そう母親に告げるとリュックを背負い,穏やかな表情で学校に向かったという。「わたしは,そのとき太陽の心が変わるのを感じました。それが数日たっても続いていて,彼が平安を感じているのをわたしも感じるのです。」

太陽兄弟はこう振り返る。「平安になったのは,秒単位でした。神殿に行ったときの3分の2くらいの霊的な気持ちでした。今年は受験で,もう神様に頼るしかないので。」ネットやゲームからはこの平安は得られない,とも打ち明ける。彼が電子機器を手にすることやパソコン机に座る時間は劇的に減った。

聖文による啓示

しかし,頑張って登校を続けてきたものの,7月の期末試験が近づくと,これまでにない焦燥感が押し寄せてきた。内申書に反映される大事な試験であり,科目数は多く,試験範囲も広く,長文の回答を求められる科目もある。

太陽兄弟は,休憩を挟みながら何時間も勉強に取り組んだ。健康を心配した両親が「家族のお祈りをするから,ここまでにしよう」と声をかけても,満足できずにまだ続けると言い張る。

夫の浩行兄弟から「何があってもまず,どうしてそうなったの? って聞いてあげて」と言われていた千晴姉妹は,心が乱れて落ち着く様子のない息子の思いにしばらく耳を傾けた。「……これほど頑張っても他の子のように頭に入らない,信仰を示してもこんな状態だよ。」

そう激しく泣いている彼を慰め,自分で祈ってみるように勧める。「聖典を開けてごらん。」母親に励まされて聖典を開くと,以前に赤鉛筆で囲んだ聖句が太陽兄弟の目に飛び込んできた。

「これ以上の証を望むならば……心の中でわたしに叫び求めた夜のことを思い出しなさい。わたしは……あなたの心に平安を告げなかったであろうか。神からの証よりも大いなる証があるであろうか。」

彼の涙は止まった。翌朝,千晴姉妹へ静かにこう告げる。「神様はぼくのことを御存じだよね。」

テスト初日の朝は,出題範囲の学習が終わらなかったこともあり落ち着かなかった。父親に神権の祝福をしてもらい,いつもより10分早く家を出て,母親と一緒に法蔵寺に立ち寄った。生年月日と命日が分からない先祖の情報を調べるためだ。太陽兄弟が水を汲んできて,千晴姉妹が線香をあげ,二人で墓前に手を合わせる。その場で,不足していた情報を彼がスマホからファミリーサーチに入力し,曽祖父母の墓参りも終えて寺を出た。

「エアー神殿」ふたたび

この日のテストは散々だった。「最初から分かんない,分かんないという感じ」で心が煽られ続けたが,最後まで頑張ることはできた。

2日目は,主要5科目のテストだった。「朝から焦っていました。1時間目は時間が足りなくて,黒板の上の時計を見ながら,時間が,時間がと焦って,心臓がばくばくばくっていう感じでした。」

10分間の休み時間では,ノートをさっと見直した後,追い込まれた状況の自分と向き合った。「今日もだめだなと思い,とにかく落ち着こうと思いました。神様に頼るしかないと。そうしたらエアー神殿を思いついて……。」

太陽兄弟は,母と一緒に体験したことを思い出しながら,神殿に心を傾ける。「教室はがやがやしていたけど,すぐに周りの声が聞こえなくなりました。だんだん平安な気持ちになって,神殿に来たみたいな感じになりました。勉強したところは,はっきりと答えが頭に浮かんできて,そこはちゃんと答えられました。」

さらに彼は,5時間目のテストまで毎回エアー神殿を行い,神様が一緒にいてくださるような安心感の中でずっと集中できた,という。テストが終わると,この経験を早く両親に伝えたい,喜んでもらいたいと,20分ほどの道のりをはやる思いで小走りに家へ急いだ。

「『エアー神殿』したんだ……まさか,自分から……」報告を聞いて驚く千晴姉妹に,太陽兄弟は目を輝かせて決意を語る。「きっと目標の点数は取れていないと思うけど,主要科目だけでも,今までで一番よくできたと思う。これからもこつこつ勉強しようと思う。あきらめないで頑張るよ!」息子を守ってくださった神様に感謝の祈りをささげながら,千晴姉妹の目に涙が,後から後からあふれた。

人の方法ではなく,主が命じられた方法で

子どもたちが幼い頃は,スパルタ教育ママだったという千晴姉妹。子どもたちの将来が不安でたまらなくて,周りから遅れを取らないようにと必死で教えてきた。周りに振り回されたこともあった。学校に行きたくない息子に戸惑う母親を見て,「こんな育て方じゃだめだ。もっとしっかりやって,何としてでも連れて来てください」と教師から叱責されたことがある。当時,自宅は学校の前にあった。千晴姉妹は嫌がる彼の手をつかみ,校庭を引きずりながら教室まで連れて行った。「泣きたい気持ちでいっぱいでした。心では子どもの気持ちを大切にしたいと思っているのに,頭では甘やかしてはいけないと考えている。自分がばらばらだと思いました。」

「でも,あるとき気づいたんです。ニーファイは,人のやり方ではなく,主が命じられた方法で船を造りました。わたしも子どもたちを主の方法で育てないといけないのだと。種が独自の形を生じるように,子どもが持っている力が伸び,この地上に来た目的が果たせるように育てないといけないなと思いました。」自分がやると決めたことで苦しむ息子を見ていられず,もういいよと声をかけたこともあるが,今は違う。「どんな状態であっても,神様から愛されているので大丈夫。この子たちを守り導いてくださるので,何も心配はない。子どもたちはかわいい。そして,本当に素敵。」

教会での過ごし方にも変化が訪れた。「とてもとても久しぶりに,家族で並んで礼拝堂の席に座り,静かな平安で心が満たされました。子どもたちが自分の信仰で,前向きな気持ちで,そこに座っていると感じました。本当にうれしくて,感謝の気持ちでいっぱいです。子どもたちは断食証会で証もしてくれました。

今日も,御霊をよく感じます。聖霊が伴侶となってくださると感じます。自然に笑みが浮かんできます。平安が去らず穏やかな気持ちが保たれています。

本当に不思議です。」◆

  1. ゲレット・W・ゴング「一人一人の持つストーリー」2022年4月総大会説教

  2. 生まれつきの脳機能の発達が関係する障害で,自閉症スペクトラムとも呼ばれ,個人によって多様な症状がある。感覚過敏で音や光や皮膚感覚の刺激を強烈に感じ,落ち着いて物事に集中できなかったり,逆に感覚の鈍い部分があったり,独自のこだわりが強かったりと,特有のアンバランスさがある。人の表情から真意を読み取ったり,暗黙のルールを察したりといった曖昧なコミュニケーションが苦手で,しばしば社会生活上の困難を抱える。周囲がその人の特性を理解して配慮したり,環境を整えたりすることで,生きづらさが軽減され,優れた能力を発揮する場合もある

  3. 発達障害に含まれ,読む,書く,計算する等の一部の学習能力が,全体的な知的発達に比べて極端に苦手となる障害

  4. https://womensconference.byu.edu/sites/womensconference.ce.byu.edu/files/wendy_watson_nelson.pdf

  5. 教義と聖約6:22─23

  6. 1ニーファイ18:1-2参照