2024
主はわたしたちの人生に計画をお持ちです
2024年6月号


Strengthen the Rising Generation─若い世代に贈る提言

主はわたしたちの人生に計画をお持ちです

2024年6月7日より,劇場映画『東京カウボーイ』が全国の映画館で順次公開される。効率一辺倒の日本人サラリーマン「ヒデキ」(井浦新(いうら・あらた))は,経営不振に陥った牧場の収益化を図って自らアメリカのモンタナ州へ足を運ぶ。まったく相手にされず,行き詰ったヒデキは,次第に人々に歩み寄ることを学んでいく。

メガホンを取ったのは,ロサンゼルス在住の教会員マーク・マリオット兄弟。主人公ヒデキは見も知らぬ土地に降り立ち,変化を遂げていくが,マリオット兄弟もまた,かつて縁もゆかりもない場所に立って養いを受けたのだった。

異国の地で

1986年,日本岡山伝道部に召されたマリオット兄弟は,最初のエリア,香川県丸亀市(まるがめし)へと向かった。瀬戸内海に面する自然豊かな地を,自転車に乗って駆け巡る。初めての日本には,驚かされることばかりだった。

ある日,いつものように自転車に乗っていると,学校帰りの中学生らが追ってきた。外人が珍しかったのだろう,次々にサインを求められた。「シルヴェスター・スタローンにでもなった気分でした。」マリオット兄弟は笑いながら当時を振り返る。初めてのすき焼きには,「生卵をすするなんて」と動揺したし,2か月ほどMTCで学んだだけの日本語ときたら壊滅的だった。「何の単語も聞き取れず,サウンドを聞いているような感覚でした。」

慣れない言語や文化にさらされ,時には孤独に襲われる日々。それでも懸命に働いたが,まったくうまくいかない日もあった。気持ちが落ち込む中,なぜか近場の階段を上り始めた同僚。マリオット長老が止めるのも聞かず,ついに一番上の段まで到達すると,彼はこう叫んだ。「悔い改めなさーい!」下りてくるやいなや,「あー,気持ちいい。長老もやってみなよ」と勧める。階段の上で同じように叫び終えると,「よし,別のエリアに行こう」と笑い合った。

自分を忘れて働く

口数が多く,いつもミュージカル俳優のように振る舞っていたというマリオット長老だが,程なくして,自分には学ぶべきことが多々あると痛感した。「もっと人々に耳を傾け,人々から学び,日本の文化や人々を尊ぶ必要があると悟りました。」自分に集中する時間が減り,人々に仕え,人々に手を差し伸べる方法を考えるようになった。

「福音に,御霊に,仕えることに集中すれば,わたしたち不完全な人間であっても,人々とつながり,人生を変える手助けをすることができます。」帰還後は,あまりの変わりように周囲から驚かれた。「伝道を通して変わったんです。……日本での経験は実にすばらしいものでした。」

栄養満点のスープ

幼いころから演技や映画が大好きだったマリオット兄弟は,2年間の奉仕を終えると,映画監督を志し,大学の映画学部で学び始める。祖母には安定した道を勧められたが,両親は夢を応援してくれた。

あるとき,日本の著名な映画監督である山田洋次(やまだ・ようじ)氏が,講演のために大学を訪問する。彼の作品と姿勢に心を打たれたマリオット兄弟は,監督の下で学ばせてもらえないだろうかと手紙をしたためた。数か月後,驚いたことに返信が届き,『男はつらいよ』シリーズの第41作目,『寅次郎心の旅路』のスタッフに加わることとなる。

撮影の舞台,オーストリアのウィーンで弟子入りし,監督の仕事ぶりを間近で観察した。直接的な指導を受けることはなかったが,質問を投げかけながら,人生や彼の映画について学んでいった。方向性を明確にし,テンポよく仕事を進めながらも,周囲に親切な態度を保つ山田監督。監督を知れば知るほど,その人柄が「寅さん」に近しいものであることを感じた。彼の映画は,ユーモアで笑わせながらも,人間味にあふれ,心を高めてくれるものばかり。期待していた以上の学びを得,大きな影響を受けた。

山田監督は,昨今の映画の多くが砂糖たっぷりのデザートのようで,栄養に乏しいと話していた。マリオット兄弟は山田監督を,「栄養満点の『シネマ』スープを次から次へと作るそば職人」のようだと表現する。「わたしも人々の霊に栄養を与えるような映画を作りたいと切に願っています。」

主の用向きを受ける

大学で映画監督の修士号を取得したマリオット兄弟は,すぐに映画監督として歩み始めようと計画していたが,異なる道を進むことになる。

今や宣教師の必読書となっている『わたしの福音を宣(の)べ伝えなさい』が出版された当初,宣教師管理部は,この本を学ぶのに苦手意識を持つ人々の理解を促す方法を模索していた。そして,実際の宣教師を起用した映像制作に着手することとなる。当時,まさしくテレビ業界でリアリティー番組の制作に携わっていたマリオット兄弟が監督を務め,「ディストリクト」と呼ばれる映像資料が完成した。宣教師訓練の場で長年活用されてきたこの作品は,教会のメディア表現の転換点ともなり,よりリアルな人々,リアルなストーリーに焦点が当てられるようになった。─「本当にすばらしい機会でした。」

忠実であれば

それでも,エンタメ業界でキャリアを積むのは容易ではなかった。番組制作をしていたかと思えば,急に依頼が来なくなる。次の仕事が舞い込む保証もなく,慌てて職を探すような状況は度々あった。生活費の高いロサンゼルスで,4人の子供たちを養うマリオット兄弟。何とかなってきたのは,「福音に従い,什分の一を支払う」ことによる祝福であったと実感している。ハリウッドを擁するロサンゼルスのような華々しい都市では,容易に信仰を失ってしまうのではと危ぶむ人々も多い。それでもマリオット兄弟は言う。「自らに忠実であり,自分が何者であるかを理解していれば,周りの人が自分をどう思うかは関係ありません。あるいは人々が何らかの行動を促しプレッシャーを与えてこようと,気に留める必要はありません。」

主を優先する

長年,映像業界で様々な制作に携わりながらも,長編映画を撮りたいという願いをずっと温めてきたマリオット兄弟は,ある雑誌記事をヒントに,『東京カウボーイ』の着想を得る。「こんな映画を観てみたい」という思いが膨らみ,ついに映画制作の道へ足を踏み出した。折しも世界的なCOVID-19パンデミックの時期であった。その間は,様々な協力者を得ながら,脚本その他の準備を進めた。

ところが,撮影開始まで残り半年というタイミングで,マリオット兄弟はビショップとして推薦される。さらに多忙を極めることは容易に想像できたが,奉仕の機会を引き受けた。「むしろ,すべてはうまくいく,このプロジェクトも大丈夫だと確信することができたんです。」

困難を乗り越えて

映画のディテールにはこだわった。実際に稼働している牧場をメインの撮影場所とし,登場人物に関しても,リアルな人々を参考にした。ところが撮影にはハプニングがつきものだ。撮影初日,いざ現場へ向かおうと意気込むも,春だというのに雪が降っている。風の威力はすさまじく,帽子はおろか,テントも軽々と飛ばされてしまうほど。予測が難しいモンタナ州の天候には,大いに悩まされた。

物語の締めくくりとなる重要なシーンの舞台は天然の露天風呂。近場では人工的な温泉しかなく,数時間かけて理想の場所へたどり着くも,大勢の人が温泉に浸かっている。「ピザでもどうですか」と協力を仰ぎ,何とか撮影の態勢を整えた。ところが太陽は容赦なく沈み,光が弱まっていく。一発撮りの時間しか残されていなかったが,役者たちの見事な集中力によってOKテイクが撮れた。

中でも一大事は,映画俳優組合との契約に誤解があり,国外撮影不可の条件が判明したことだった。ロサンゼルスを東京に見立てて撮影することはできるが,リアルな日本の雰囲気は到底出せない。交渉の末,何とか例外を認めてもらい,東京での撮影が実現した。─そうした奇跡の連続を経て,ついに作品が完成する。

主とともに夢を叶える

2023年ハワイ国際映画祭では,山田洋次監督作品『こんにちは,母さん』とともに,『東京カウボーイ』も上映作品に選ばれた。34年の時を経て,師匠と同じ映画祭で評価されるに至った。

「夢が叶った」─長い長い道のりになったが,マリオット兄弟が自らの望みを第一優先することはなかった。「神の御心を知ろうと努めることが最善と言えます。神は各々の人生に計画をお持ちだからです。」大学卒業後すぐに映画監督の道に進んでいたなら,教会のプロジェクトを含め,多くの貴重な経験を逃していただろう。主の導きを祈り求めて歩んだ自分の人生を振り返ると,あふれる「喜び」が備えられていた。「経験してきた喜びは信じられないほどで,主の御手によるものでした。」ほんとうの意味で何が幸せをもたらしてくれるのか,限られた理解しかないわたしたちに比べ,神の計画はいっそうすばらしいとマリオット兄弟は言う。

問題があるときには神に相談することで,何度も道が開かれてきた。今回の制作に当たり,マリオット兄弟は「大胆な冒険に」出る。財源が限られていたので,自身は報酬を受け取らず,ここ1年半は貯金のみで生活してきたのだ。それでも妻と家族が支えてくれたことに感謝し,主を信頼し続けるマリオット兄弟は,「映画の成功を願っています」と明るく笑い飛ばす。

溝を埋める架け橋に

主人公のヒデキとは,類似点があるというマリオット兄弟。日本に来て初めて,人々に耳を傾け,つながりを築く方法を学んだ自分を,独りよがりで,どこにいても孤立していたヒデキに重ね合わせる。

世界は今や,わたしたちを分断するものであふれている。これは,人々の間にある溝を埋め,人々とつながることについての映画だと語るマリオット兄弟。今回の来日を機に,自身も伝道時代に出会った人々と再会を果たし,徐々につながりを取り戻している。

「わたしは人々を高める映画を作りたいと願っています。キリストのような原則が描かれた映画を。」─映画のラストは,夕闇に染まりゆく広大なモンタナを感慨深げに眺める主人公の映像で締めくくられる。人々とのつながりを育むなら,わたしたちの目に映る世界もまた,いっそう愛に満ちたものとなるだろう。

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去る3月11日,東京・恵比寿での特別先行上映会に主演者らとともに登壇したマリオット監督は,日本語で「ほんとうにうれしいです。楽しんでください!」と発し,渾身の作品を世に送り出した。◆

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  2. 宣教師訓練センター

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  4. 伝道活動に関するガイド

  5. 宣教師の実生活を追いながら,様々な伝道の原則を説く動画シリーズ

  6. 山田洋次監督90本目となる最新作

  7. 映画『東京カウボーイ』2024年6月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

    配給:マジックアワー 出演:井浦 新,ゴヤ・ロブレス,藤谷文子,ロビン・ワイガート,國村 隼

    監督:マーク・マリオット 脚本:デイヴ・ボイル,藤谷文子プロデューサー:ブリガム・テイラー 撮影:オスカー・イグナシオ・ヒメネス 編集:井上ヤス 音楽:チャド・キャノン 原案:マーク・マリオット,ブリガム・テイラー 

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